
私たちが扱うものはほとんどが総手工、全手工、純手工と呼ばれる高級品です。
手工の基準は、作り手側も様々な解釈ですが、簡単にいえば、商業的効率を排した、「純粋に物のあるべき良さを追求して作られた製品」と言い換えることができると思います。
ということは自然と伝統の外見的様式を踏襲するのみならず、素材から工法まで「意味あって練磨されてきた規矩を違えない」ということに帰結するでしょう。
ところで「意味あって」ということはどういうことでしょうか。
これから一つ一つの製品をじっくり見てゆくことで、手作りのものとはどういうことか触れてまいりたいと思います。
まずはこの製品の特質は、希少な本景徳鎮手工胎という点です。景徳鎮の胎にも大変な等級の階層が存在します。
最高級品は私たち小雅窯など巷では失われたと言われてきた歴代のカオリンや釉を有する窯元が製作する最高級胎です。もちろんいいものを使うからには高給職人の轆轤作りが徹頭徹尾行われます。こういったものは鉱石の粉砕から水車など使って打つなどの気の入れようです。鉱石も手堀です。膨大な土木作業者を動員しての大工程です。
その次は割と産出量が多い、景徳鎮新鉱というところから出た磁土を使ったもの。歴代オリジナルカオリンとは違いますが、坑道が違っても鉱脈が同じなので、ほぼハイクオリティーが約束されます。こちらは割と現代的な採掘が可能なので安定して割安に鉱石が採掘できます。発破が使えたり坑道にトロッコなど入っていけますものね。
それ以外の素材は外地材ということになります。
雲南省。これは良質なもの。
福建省、広東省。これは安物に混ぜます。
浙江省。これはいわゆる土産物的偽物に多用されます。質は硬質で悪くなく見た目味わいもありますが。本景徳鎮とは比べるまでもありません。。
そして高白泥に代表される精製土。
台達などは見た目よくても量産物で強度がありません。
ということで、こちらは景徳鎮新鉱の磁土だと思われます。
なぜなら、総手工にわざわざ用いるぐらいの土であること。
独特の胎の粘りと強度。質感。透明感など外地のものと一線を画します。
この手の急須のほとんどが型枠で形成しているのに対して、本作はロクロで原型をひいて形成まで全て人の手先の仕事でフォルムが決定されてゆく性質のものです。
当然回転しながら作られた本体は重心バランス感覚に優れ掌に扱いやすく倒れにくい性質を自ずから持っています。
余談ですが地震の時、棚から落ちたのはほぼ型物でした。轆轤の職人というのは、一番わがままで、個性的で、高給取りです。下手すると小さな工房の社長などよりよほど金持ちです。弟子に運転させて高級車で依頼工房を巡ってきます。連中を押さえて、こういったものを安定して作らせたり、この価格を維持することは月ごとに困難なのです。いい職人は引っ張りだこです。こうした職人を捕まえられない殆どの工房の製品が市場に溢れていますので、ややもすると普通の人は質の劣るものしか手に入らないということになるでしょう、いえ既にそうなっています。上部高級景徳鎮の全貌は私ですら全て見通すことなどできない世界なのです。日本からチョロっと仕入れに来たとか、一二年留学したとかで出会える世界ではありません。。
さて、轆轤の形成胎ということは、石膏の型流しと比べて薄さ、軽さでは劣るものの、厚みにはそれなりの利点がついてきます。
磁土と焼成の加減も関係していますが、それらとマテリアルの厚みが絶妙に絡んで水に作用してお茶が美味しくはいるということです。
特に熱湯で入れる茶葉で薄い葉のものには殊更有効です。
型物は熱湯を注ぐと一気に熱くなり、一気に冷めてゆく特徴がありますが
景徳鎮胎のロクロ形成物は熱湯をさすと茶葉には熱い湯が当たりさっと開かせますが
温度を厚手の胎が適度に吸い込みわずかに湯の温度が下がるため茶葉を煮えさせません。そして胎が温まると今度は安定して冷めにくく香りと味を損ねません。また磁石のように厚手の胎が水に作用して柔らかい水の口当たりの感触を誘発します。これは胎が厚いほど、密度が濃いほど顕著にでます。
続く
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