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昔の景徳鎮の市街中心部は昌江沿いの現在の太白園から珠山にかけての辺りで、プラタナスの並木のある狭い馬車道の両側に古い窯と同じ高温焼成レンガ造りの古い戸板の商店や家家が密集していた。馬車道から家々の間は細い路地(小弄)が迷路のように張り巡らされ、路地の角々には土地神が祀られ蝋燭や線香が点されていた。
夏ともなれば路地は風通しが悪く、人々は三々五々団扇を持って昌江沿いに涼みにやってきては賭博や囲碁将棋、下ネタに改竄された地方演劇など遊興に耽る。 日本からカラオケがやってくると川沿いには露天のカラオケやダンス社交場が増え、常設の飲食店と併設のカラオケ店も出来るようになった。 ところがここが昼間から酒を飲んで暴れる様な連中の格好のたまり場となった。低賃金の苦力のような人々からチンピラ、やり手婆あから爺ちゃん婆ちゃんひ孫と、近隣住民とでごった返している。 当然民度も高くないうえに流動人口も集まることから、酒も入って喧嘩が絶えない。先日も数時間も乱闘する連中がいた。見物人で垣根ができると中国人は面子があるから舞台から降りられなくなるのだ。 先に抜けた方が負けなのだ。 残った人間が周囲にどんなことを言うのか知れたものではない。 共倒れするか誰かが仲裁に入るまで終わらないのだ。 しかしこれはあくまで経済的に同レベルの喧嘩の場合である。 景徳鎮の病院は喧嘩と交通事故の緊急外来がほとんどであるのもうなずける。いつかも血だらけの僧たちが取っ組みあいながら病院に来て「静かにしなさい、ここは病院です!お前らを見てやらないこともないが。。」と医者に注意されながら賄賂を要求されていた。 先日の夜釣りで工場長にゴム長を無くされて、川沿いに探しに行った。 蝉しぐれの川沿いはプラタナスの街路樹の間から積乱雲の青い空と山並みが見える。川面を渡る風の匂い、草いきれ、子供のころを思い出す懐かしい夏の風景だ。 しかし私が心で密かに期待したのは喧嘩である。 サッカーやボクシング見物よりより刺激的だ。 中国人の思考が見えてこれまた面白い。 宋代の公案小説とそっくり同じような事が繰り広げられる。 いたいた、いました!! 前方に人垣が出来ている。ざっと見20人。 これは何かに違いない。 現場に到着するとタクシーが一台道の真ん中に停車していて傍らに電気自転車が横転している。 私もいつの間にか景徳鎮の方言が聞くだけは少し分かるようになった。 下駄の様な顔をした女性タクシー運転手が人垣の中に背が高くて身なりが(周囲より)いい私を見つけるや、私を味方につけるため私に向かって大声で京劇の様なしぐさを交えて何が起こったかか最初から説明始めたので私も逃げられなくなった。みんな笑って聞いている。 「あんた聞いておくれよ、私はなんにも悪さなんてしてないんだから、この商売始めてこのかた信用で顧客の安全を考えてないと続けられない商売柄安全には人一倍心がけてきたんだから、今もここに車を止めようとして細心の注意で車を寄せたんだから、ドアを開けるときもお客に言って前後に気をつけてそっとドアを開けた時、この酔っぱらい親父が電気自転車で勝手に突っ込んできやがって転びやがったんだよ全く笑えないね。」 そう言われて先ほどまで何でもなかった酔っ払い親父が うーんうーんと唸りながら膝と腰をさすりはじめた。。 見たところタクシーもどこも壊れて無いし、電気自転車も大した傷も無く 親父の怪我も何でもなさそうだ。 恐らくタクシーの客だった10代の若夫婦が生まれたばかりの子供を抱いて炎天下心配そうに事の流れを見守っている。 まだ木陰だし風があるから新生児は大丈夫そうだが、かみさんの着けまつげが汗と暑さで外れそうである。 道路清掃のおっさんから、鉄筋、土管を担いだおっさん。 どっかのマネージャーから近所の人まで人がどんどん湧いてきた。 下駄の様な顔の演説を見物しながら、子供におしっこさせる母親、小さな椅子に座って団扇で扇ぎながら戸口からボケっと眺める老人たち。 手にどんぶり飯を持って立ち見する者もいる。 恐らく目撃者の、よれよれ麦わら帽子の道路清掃おっさんが竹ぼうきを結界にして下駄に近づいてなんとか仲裁したそうなのだが、口をはさむすきが無く、押し返され苦笑している。 何の被害も無く、酔っ払いが少し打ち身とかすり傷なだけだから、さっさと解散してもいいんじゃないかと誰かが言えばどうにかなりそうな雰囲気だ。両方の顔を誰かが立てればなんとか収まるほどの軽被害だ。 しかし見物人の増加に興奮した下駄は引き下がらない。 酔っ払いは涙目とも酒の充血ともとれない目で卑屈に被害者を演ずるべく 身体を押さえて同情を集める作戦に出ている。口で勝てなければ同情で勝とうと言うのだ。 下駄が大声で言った。 「あちらの家の角に座っているお爺さんが一部始終見ていたんだから聞けばハッキリしているんだよ何もかも。」 お爺さんが徐に立ち上がってこちらにやってきた。皆が展開に期待を膨らましかけたその時、お爺さんがふと立ち止まった。 一生懸命何か考えているが、何しに来たか忘れてまた元の門口の子椅子に戻ってしまった。。(笑) そのうち誰も仲裁しないので下駄も、親父も「何か違ってきた」という表情になり、携帯で身内の人頭を集め始めた。 数で勝敗を決める手に出たのだ!人が多ければ人脈もそれだけ多くなる。 勢力を見せつけて相手に退かせる作戦だ。 もうこうなると有象無象のカーニバルである。 期待に胸ふくらませて眺めていると 数軒先の飲食店から上半身裸のサングラスの兄貴たちが 博打を終えて出てきた。肩にシャツを引っかけて 金無垢のネックレスとシルエットの綺麗なブランド革靴が目をひく。 そして両肩には龍虎と槍の、胸には全裸の浮世絵女性の刺青が彫り込んである。。 兄貴たちは店を出ると真っ直ぐこっちに向かって歩いてきた。 皆の目が輝いた!! 流れから行くと、有象無象のどうしようもない喧嘩は、兄貴たちが まあまあと言って仲裁、解散させてくれると言うような塩梅だ。 下駄は兄貴たちを味方につけようと意気込んで待ち構えている。 兄貴たちが苦笑しながらやってきた。 「おう、お前ら!一体どうしたって言うんだ??」 おお!まさしく期待通りの展開になってきた!! 「うあっ??なんじゃ~これは~??」 兄貴の驚きとも、呻きともとれない叫びに皆が固まった。 なんと今まで誰も気がつかなかったが、傍らに停車していた兄貴たちの外車のボンネットがものすごい傷で凹んでいるではないか!! 「おい、誰だ一体!俺の車に傷をつけやがったのは!!」 観衆の表情が一斉に微妙なものへと変わった。 つまらぬ喧嘩に終に漁夫が現れて窮地に追い込まれそうな二人を笑いたいのと、心配なのが入り混じって顔は引き攣りながら目だけ笑っている。。 「勘弁してくれよな、なんてこった。。よりによって。お前らのどっちかがぶつかったんだぞこれは!停めた時は傷は無かった。普通じゃないぞこの傷は!!思いっきりぶつかった傷だ。。ああ~。。」 「誰がどう言ったってあたしじゃないからね!!あたしゃ客を降ろそうと車をここに停めただけだからね!」 「お前がドアを開けた時ぶつけたんじゃないのか?」 「何言ってんだよ!このドアのどこに傷がついてるんだい??あちらの旦那がご丁寧にドアを開けたところに後ろから突っ込んできて避け損ねて転んだんだよ。あたしのせいじゃない!!」 「お前が急にドアを開けたからオヤジが避けそこなったのと違うのか?」 「そんなことあるかい!!こんなに距離を開けて車を停めたんだよ!そんならもともとあんたがたがこの大層な車をこんなところに勝手に停めとくから一時停車も糞も出来ないんだよ。ここは駐車場かい一体??」 「おうおう待てよおい。。落ち着け、今度は俺たちか?」 下駄のものすごい予想外の剣幕に兄貴も煙草をくわえながら苦笑した。 他の兄貴たちもすっかり興ざめして酔いもさめて真顔になってシャツを着てしまっている。次のスケジュールの調整に電話している兄貴もいる。あとから来たブランドサングラスの姉さんが若夫婦の赤ん坊を気遣っている。 兄貴が向き直って言った。 「じゃあ悪いのはお前だ!!」 皆が一斉にオヤジの方を見た。 「うーん、うーん。いててて。。」 おやじがわざとらしく苦しがった。 「俺じゃない。俺は転んだだけで悪いのはタクシーの女だ」 「ほらみろ!やっぱり悪いのはおばさんだ!」 「何だって分かんない人たちだね、あんたの車を傷つけたのは勝手に飛び込んできて転んだあの人なんだよ、あたしはとばっちりでえらい迷惑だよ」 「とばっちりって言うのはこっちのセリフだぜ、笑わせてくれるよなあみんな!それとも何か!俺の車がここに停めてあったんで全部始まったとでも言うのか?勘弁してくれよおばさん!俺がここに車を停めたって必ずしもあんたの車がここで停車したりおっさんが飛び込んでくるとは限らねえだろう??分かっか?」 「おう、兄貴、みんな向こうで待ってるんだぜ、雑魚相手にいつまでやってるんだよ、直したって幾らでもねえだろう。」 兄貴たちの内部分裂が始まった。 車の持ち主は修理代を意に介しているが、他は車なんて傷があっても走れるぐらいの考えだ、しかも他人のだ。 その時私は兄貴の外車すれすれのコンクリートの地面にできたての傷と白い塗料のあとを見つけた。 「見ろよ、これではっきりしなかったら何だね?」 姉さんがよってきた。 「あんた、そうだよこれだよ!」 傷は長く長く引きずって引きずってオヤジの電気自転車に繋がっていた。 「糞、やっぱりお前か!お前しかいないだろうどう見ても!」 「俺は悪くない!悪いのはタクシーの女だ!俺は被害者だ!」 「じゃあやっぱりおばさんにも責任は無いとも限らないな」 「冗談じゃないよ!あたしは普通に停めて普通にお客を降ろそうとしただけさ!大体あんたがこんなところに車を停めてるからみんなが半端に動かなきゃならないんだよ!」 「何で俺たちが悪いんだよ!こっちは忙しいんだ、頼むからなんとかして開放してくれや!一体誰が悪いんだ!」 「オヤジだ!」 「いや女だ」 「兄貴だって人を責められないね」 「兄貴~、早く行こうぜ!」 「何でだよ~、なんで俺がこんな雑魚に巻き込まれなきゃ無いんだよ。。」 「そりゃやっぱり酔っ払いのオヤジが悪いんだよ!」 「それは困る、俺たちも飲んでるしな、なんだよせっかく飯食って博打していい気分だったのに。。」 なんだか膠着してきた。しかも間もなくオヤジと下駄の応援部隊が到着する。。 兄貴たちはこんな雑魚のために面子を使って人頭を集めたり、皆の手前大声を出すわけにもいかずひたすら我慢している。 一体これからどんな展開になるのだろう。 「あ、いけない。工場長に置きっぱなしにされたゴム長探しに来たんだっけ。。」 私は後ろ髪を引かれる思いで現場を立ち去った。 途中ジュースを買って飲みながらだらだらと並木道をあるいて、昨日の夜釣りの場所に来たが既に清掃同志に持ち去られていた。 「何だ、がっかりだな。」 何気なくポケットに手を入れたその時、 「無い??鍵が無い??」 家の鍵が無くなっている!!! 続く PR |
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