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どうもこの街は人ばかり多くておまけにあっちもこっちも普請場だらけ。そっちもこっちも掘っくり返されて真っ直ぐに歩けやしない。言ったところでどうにもならない不満を呟きながら、街に筆を買いに出かけた。
残暑厳しい馬路の路肩で、麦わら帽子に半裸の胸の落ち窪んだ痩せ男たちが汗を滴らせ寡黙に背丈ほど柄の長いスコップで土管を埋める穴を掘っている。 穴の周囲の土の山に数人の農婦が這いつくばるように蠢いていた。近寄ると掘り起こされた土の中に青い染付の欠片が沢山混じっていた。農婦たちはこの欠片を拾い集め行商人に売り、行商人がそれを大きな街の市場や骨董商に持ちこんで売るのである。 見れば清朝の康熙帝、乾隆帝のころの精緻な絵付けを施した美しい欠片が男たちのスコップや鶴嘴に無残に砕かれてそこかしこに散っていた。 何とも美しい青色を気の毒に、痛ましく感じた。せめて足元に散らばっていた泥だらけの欠片だけでもと無作為に拾い集め、風に飛んできた米袋を拾って、それにくるくると巻いて鞄に仕舞い込んだ。 街で筆を買い雑多な所用を済ませた頃には日も大分西の山並みに傾き、残照の昌江の水面には浮梁の山々から秋風が渡っていた。 物売りや家路を急ぐ人々の雑踏を避け近道の古い路地を渡り歩いて街の外れまで抜けると途端に人通りが減り、日入りの薄墨のなか紫色の柳の枝が晩風に揺れると蛍がほろほろと 枝から散ってはまた別の枝に灯り、またある物は清朝の青石の苔むす敷石の上にぼんやりと青白い影を落とす。 昼に男たちが掘り返していた穴もどうやら埋め戻され、暗闇でも幾分安心して歩けると喜んだ。こんなことに喜ばなくてはならないのも何事にも杜撰なこの街らしい。長年出入りの職人が相次いで道路工事の穴に落ち、大怪我で寝たきりになったのは最近のことである。 それでも注意するに越したことは無いと往来に目を凝らすと、辻辻にぼんやり焚き火の燃え差しのような明かりが点々と燻っている。 そう言えば今日は日本でいうお盆のような鬼節の入りである。辻で蝋燭を灯し爆竹を焚いたり、紙で出来た紙銭を焚いて地獄の蓋から出てきた霊を供養し鎮めるのである。 そんな晩と知れば帰り足もしらず急ぎ足になるのであった。聞けば本来は門を閉じて家でじっとしているべき日なのだと言う。 PR |
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